| [その壱] |
| 初雪は、至福を運んでくる。 魚津の浜を波が洗っている。 雲はいよいよ低く垂れこめ、風は演歌のように哀しくうなる。 遠くで鳴るのは雷だろう。ありがたい、魚が一段とうまくなる季節ではないか。 文机に向かい、あれこれ年賀状の文句を思案していると、 「飲まないか。」 昆布じめ刺し身『櫓旬』を土産に友が来た。 家人の挨拶は熱燗持参の手際良さである。まずは一献。わさび醤油を用意させ、早々に箸を付ける。白えびの身に昆布の味が程よくしみており、例えようもない。ひらめの方も、これまた至福である。 誰が編み出したのか、昆布じめ刺し身は、元禄の頃から魚津に伝わる郷土料理である。かつては、骨休めに実家へ戻った娘が再び嫁ぎ先へ帰るとき、親はたいてい昆布じめ刺身をもたせたという。新鮮な魚を刺し身におろし、昆布に並べてクルクルと巻く。ことさらに特別な技法があったわけではない。創意と工夫こそが料理の奥義というべきだろう。 けれども、なぜ昆布じめなのか。魚は焼いても良し、煮ても良し、刺し身もこの上なかろうに。友は保存食という説を押すが、うまいものを食べたい一心からではなかったか。酔いにまかせて戯れ言をいい合っている間に、庭が白く化粧を始めている。明日は鎌倉の旧友に、初雪の便りを添えて『櫓旬』の詰め合わせを贈ろう。魚津の懐石風味に絶句する姿が目に浮かぶようだ。 |
