[その弐]
白い夏。

通り雨が打ち水となったせいか、葺簾を透かして涼風が届く。そろそろ暑中見舞の季節である。
陽もまだ高いというのに、妻がグラスを用意した。一緒に飲もうという魂胆らしい。テーブルには白えびが並んでいる。例の、昆布じめ刺し身『櫓旬』である。氷の上にのった白えびは、さながら立山の雪のようだ。
そういえば、父に聞いた記憶がある。夏になると、魚津の町に雪を売って歩く少年たちがいたことを。 詩人・田中冬二も「ふるさとにて」に書いている。
  
   ほしがれいをやくにほひがする
  ふるさとのさびしいひるめし時だ
   (中略)
  がらんとしたしろい街道を
  山の雪売りがひとりあるいている

冷蔵庫のない時代である。冬に雪を積み、貯蔵していたのだ。真夏の雪は大変な魅力だったに違いない。いまよりも風流ではないが。妻にそう問いかけるが、キリッと冷やした吟醸酒には『櫓旬』がよく合うわね、ひらめの方も開けましょうか、などと目の辺りを染めながらいう。
「ユキノコーリ、イランケ。」
白えびを口にすると、涼しげな呼び声が聞こえてくるようだった。